USCPAは役に立つのか。時間とお金をかけてまで取得する価値はあるのか。
これは、監査・会計業界でたびたび議論になるテーマである。
「転職に有利になる」
「英語と会計を同時に証明できる」
「日本ではあまり意味がない」
さまざまな意見があるため、取得を検討している人ほど迷ってしまうのではないだろうか。
私は日本の公認会計士として、Big4監査法人に3年半勤務した。その間、USCPAの資格を持つ人とも一緒に働いてきた。
そこで今回は、USCPAの一般的なメリットを並べるのではなく、Big4監査法人の内部から見て、USCPAは実際にどれくらい役に立つのかを率直に書いてみたい。
※本記事は、筆者が勤務していた当時の経験に基づくものである。採用条件や昇進制度は、監査法人・部門・時期によって異なる点に留意してほしい。
結論:監査法人では役に立つ。ただし、JCPAを代替する資格ではない
先に結論を述べる。
USCPAは、Big4監査法人で働くうえで十分に役立つ資格である。しかし、日本の公認会計士資格、いわゆるJCPAを完全に代替できる資格ではない。
これが、監査法人で実際に働いた私の率直な感想である。
USCPAを取得している人がBig4監査法人に入社し、監査人として働くことは珍しくない。会計や監査の基礎知識があるため、資格の勉強で得た知識を実務に活かすこともできる。
一方、日本国内の法定監査を中心に長くキャリアを築こうとすると、JCPAとの違いが徐々に大きくなる。
したがって、「USCPAは役に立つか」という問いに、単純なイエス・ノーで答えるのは難しい。
どのような仕事をしたいのか、監査法人にどれくらい長く勤めたいのかによって、資格の価値は変わる。
USCPAが監査法人で役立つ理由
USCPAでもBig4監査法人への就職は可能
USCPAの資格を持っていれば、Big4監査法人に就職できる可能性は十分にある。
もちろん、資格を持っているだけで必ず採用されるわけではない。年齢、職歴、英語力、コミュニケーション能力なども含めて総合的に判断される。
それでも、USCPAの学習を通じて会計や監査の基礎知識を身につけていることは、採用上のプラス材料になるだろう。
実際の監査チームには、JCPAだけでなく、USCPAや海外の会計士資格を持つメンバー、資格を持たない監査補助者など、さまざまなバックグラウンドの人が在籍している。
入社直後からJCPAとまったく同じ役割を任されるとは限らないが、USCPAだから監査業務に参加できない、というわけではない。
特に、外資系企業、海外子会社、英語を使用する監査チームなどでは、USCPAの知識や英語力を活かせる場面も多い。
USCPAの勉強で得た知識は実務でも役に立つ
USCPAでは、財務会計、監査、税務、ビジネス法務などを幅広く学ぶ。
試験で扱われる制度は米国を前提としているが、会計や監査の根底にある考え方には、日本の実務と共通する部分も多い。
例えば、財務諸表の構造、内部統制、監査手続、監査リスクといった基本的な考え方は、Big4監査法人で働くうえでも役に立つ。
監査法人に未経験で入社した場合、最初は聞き慣れない用語や考え方に苦労する。USCPAの勉強を通じて基礎知識を身につけていれば、業務を理解するスピードは上がるだろう。
また、英語の会計用語に慣れていることも強みになる。
Big4監査法人では、海外の監査チームと連携したり、英語の監査指示書や会計基準を読んだりする機会がある。資格の勉強で英語と会計をセットで学んだ経験は、このような場面で活きる。
USCPAだけではカバーできない点
米国と日本では会計基準・監査制度が異なる
一方で、USCPAの知識をそのまま日本の監査実務に適用できるわけではない。
USCPA試験は、基本的に米国の会計基準や監査制度を前提としている。日本の監査法人で担当する会社が日本基準を採用している場合、日本基準や日本の法令、国内の監査基準などをあらためて学ばなければならない。
私自身、USCPA資格を持つシニアと同じ監査チームで働いたことがある。
その人は非常に優秀だった。
仕事の進め方やコミュニケーションに問題はなく、シニアとして監査チームをしっかりと支えていた。少なくとも、USCPAだから監査人としての能力が低いと感じたことはない。
一方で、日本の会計基準や監査基準に関する細かな知識については、時折不安そうにしている場面も見かけた。資格試験で学ぶ範囲が違う以上、ある意味では当然のことである。
USCPAで得た知識は監査実務の土台として役に立つ。しかし、日本の監査法人で働くのであれば、日本基準や国内の監査制度を実務の中で追加して学んでいく必要がある。
監査法人内の昇進には制約が生じる可能性がある
USCPAとJCPAの違いが大きく現れるのが、監査法人内で昇進していく場面である。
スタッフやシニアとして監査業務に携わる段階では、USCPAとJCPAの担当業務に大きな差を感じないチームもあるだろう。
しかし、マネージャー以上への昇進については、監査法人や所属部門によってJCPAの取得・登録が条件になる場合がある。
さらに、日本における監査証明業務は、日本の公認会計士および監査法人に認められた業務である。USCPAだけでは、日本の公認会計士として法定監査の責任者になることはできない。
監査法人のパートナーには、監査報告書に署名する業務執行社員として、監査意見に責任を負う役割がある。そのため、USCPAのみで日本の法定監査を中心としたキャリアを歩む場合、最終的な昇進や担当できる役割に制約が生じる可能性がある。
もちろん、すべてのUSCPAがパートナーを目指すわけではない。
数年間の監査経験を積んだ後に、事業会社、外資系企業、コンサルティング会社などへ転職するのであれば、この制約が大きな問題にならないケースもある。
一方、監査法人で長く働き、日本企業の法定監査を主導したいのであれば、JCPAとの違いは無視できない。
JCPA取得後にUSCPAも取得しても恩恵は少ない
ここまでは、主にUSCPAを入口として監査法人に入る場合について説明してきた。
それでは、すでにJCPAを取得している人が、追加でUSCPAを取得することにはどのような意味があるのだろうか。
私の周囲には、JCPAを取得した後にUSCPAも取得した先輩がいた。
しかし、その先輩は、USCPAについて「取得したものの、特に役には立たなかった」と話していた。
確かに、国内の監査法人で働くことを前提とすれば、JCPAとUSCPAの両方を取得することによるメリットは、それほど大きくないように思う。
JCPAを取得していれば、日本の法定監査に必要な資格上の要件はすでに満たしている。監査法人への就職や法人内の昇進においても、国内ではJCPAの方が直接的に評価されやすい。
また、英語力を高めることが目的であれば、USCPAの取得が唯一の手段ではない。
海外赴任や外資系企業への転職など、USCPAが直接評価される明確な目的があるなら、取得する意味はあるだろう。しかし、漠然としたスキルアップや資格欄の充実を目的として取得するのであれば、かけた時間や費用に見合わない可能性がある。
少なくとも、国内の監査法人で働き続けることを前提とするなら、JCPA取得後にUSCPAまで取得する優先度は高くない。
USCPAの勉強に使う時間を、英語のスピーキング、特定業界への理解、IFRS、IT、データ分析など、別の能力を伸ばすことに使った方が、実務上のリターンが大きいケースもあるだろう。
USCPAの価値は、目指すキャリアによって変わる
ここまでの話は、あくまで「日本の監査法人で働く場合」に限ったものである。
USCPAの価値は、監査法人の外に目を向けると変わってくる。
例えば、次のようなキャリアでは、USCPAの知識や資格が評価される可能性がある。
- 外資系企業の経理・財務
- 海外展開する日系企業の経理
- IFRSやUS GAAPに関係する業務
- 海外子会社管理
- FASや会計系コンサルティング
- 内部監査・内部統制
- 英語を使用するグローバルポジション
こうした仕事では、日本の法定監査報告書にサインできるかどうかよりも、会計知識、英語力、実務経験を組み合わせて仕事ができるかが重要になる。
そのため、USCPAを「日本の公認会計士より簡単に取れる代替資格」と考えるのはおすすめしない。
むしろ、会計と英語を軸に、グローバル企業や会計関連職へキャリアを広げるための資格と考える方が、実態に近いだろう。
USCPAを取るべき人、慎重に考えるべき人
以上を踏まえると、USCPAの取得と相性がよいのは、次のような人だと考える。
- 会計・財務の仕事にキャリアチェンジしたい人
- Big4監査法人で実務経験を積みたい人
- 外資系企業や海外関連業務に興味がある人
- 英語と会計を掛け合わせて市場価値を高めたい人
- 日本の公認会計士試験とは異なるルートで会計を体系的に学びたい人
一方、次のような人は慎重に考えた方がよい。
- 資格を取るだけで大幅に年収が上がると考えている人
- USCPAがあれば必ずBig4に入れると考えている人
- 日本の法定監査を主導し、監査法人のパートナーを目指したい人
- 「JCPAより取得しやすそう」という理由だけで検討している人
- すでにJCPAを持ち、明確な目的がないまま追加取得を考えている人
資格の価値は、取得した瞬間に決まるものではない。
その資格を使ってどのような実務経験を積むかによって、大きく変わる。
まとめ:USCPAは有用だが、万能ではない
USCPAは、Big4監査法人で働くうえでも役に立つ資格である。
監査法人への就職につながる可能性があり、学習した会計・監査の知識も実務で活かせる。英語を使用するチームやグローバル企業を担当する場合には、さらに強みを発揮しやすい。
実際、私が一緒に働いたUSCPA資格者も、シニアとして非常に優秀な人だった。
一方で、日本の会計基準や監査基準の細かな知識については、JCPAとの差が表れる場面もある。また、日本の法定監査においてはJCPAにしか担えない役割があり、監査法人内で長期的に昇進する場合には制約が生じる可能性もある。
さらに、すでにJCPAを取得している人がUSCPAも取得するメリットは、少なくとも国内の監査法人で働く限り、それほど大きくないと私は考えている。
したがって、私の結論は次のとおりである。
USCPAは役に立つ。しかし、日本の公認会計士資格を代替するものではない。また、JCPA取得者が必ず追加で取るべき資格でもない。
大切なのは、「USCPAは有能か」という抽象的な議論ではない。
自分が目指すキャリアにおいて、USCPAが必要なのか。
資格取得を検討するのであれば、まずはこの問いから考えてみてほしい。




