監査法人の採用面接は、論文式試験の合格発表後に行われる。
しかし、法人側による就活生の評価は、正式な面接から始まるわけではない。
実際には、論文式試験直後に開催される説明会や座談会、個別面談の段階から、リクルーターは就活生のことを見ている。
私は監査法人に入社してから3年間、所属事業部のリクルート活動に参加していた。自分がリクルートを担当した就活生が、後に同じチームの後輩として入社してきたこともある。
この記事では、私自身の経験と、リクルートを担当していたマネージャーやパートナーから聞いた話を踏まえ、監査法人のリクルートで何を評価されるのかを解説する。
なお、具体的な評価方法や採用方針は、法人・事業部・年度によって異なる。本記事は、あくまで私が実際にリクルート活動へ参加した経験に基づくものである。
監査法人のリクルート活動が始まる時期や、論文式試験後から内定までの流れについては、前編の「監査法人のリクルートはいつ始まる?論文式試験後から内定までのスケジュール」で解説している。
就活生の評価は8月下旬から始まっている
監査法人の正式な面接は、例年、論文式試験の合格発表後に行われる。
しかし、法人側が就活生を意識し始めるのは、それよりも前である。
論文式試験後に開催される説明会、座談会、オフィス見学、個別面談などには、各事業部の職員がリクルーターとして参加している。
リクルーターは就活生に情報を提供するだけでなく、次のような点も見ている。
- 基本的なマナーがあるか
- 感じよくコミュニケーションを取れるか
- 会話がきちんと成立するか
- 自分で考えて質問しているか
- どの業界や仕事に興味を持っているか
- 入社後に一緒に働きたいと思えるか
座談会だからといって、必ずしも選考と完全に切り離された場ではない。
もちろん、イベントで少し言葉に詰まっただけで不採用になるわけではない。しかし、良くも悪くも印象に残る可能性はある。
極端に気を抜かない方がよいだろう。
評価ポイント①最低限のマナーがあるか
まず見られるのは、社会人として最低限のマナーがあるかどうかである。
ここでいうマナーは、特別に難しいものではない。
- 場に合った服装をしている
- 挨拶ができる
- 敬語を使って話せる
- 相手の話を遮らない
- 遅刻や無断欠席をしない
- 連絡が必要なときに適切に対応する
少なくとも、この程度を押さえておけば大きな問題にはなりにくい。
一方、学生や受験生にとっては、「どこまで丁寧に振る舞えばよいのか」が分かりにくいかもしれない。
必要以上に堅くなる必要はない。監査法人の職員も、就活生に完成されたビジネスマナーを求めているわけではないからだ。
ただし、相手への敬意が感じられない態度は悪目立ちする。
監査は、クライアントやチームメンバーとのコミュニケーションが欠かせない仕事である。最低限のマナーがない人を採用することは、法人にとってもリスクになる。
評価ポイント②一緒に働きたいと思える人柄か
次に見られるのが、人柄や感じの良さである。
監査法人の仕事はチームで行う。
繁忙期には、同じメンバーと長時間一緒に働くこともある。クライアントから資料を受け取り、質問し、会計処理や内部統制について議論しなければならない。
そのため、採用する側は自然と「この人と一緒に働けるか」という視点で就活生を見る。
明るく社交的な人だけが評価されるわけではない。物静かな人でも、相手の話をきちんと聞き、誠実に受け答えができれば問題ない。
反対に、次のような態度は避けた方がよい。
- リクルーターによって態度を変える
- 若手職員を露骨に軽く扱う
- 相手の話を聞かず、自分の話ばかりする
- 他の受験生を見下す
- 「試験に受かったのだから採用されて当然」という態度を見せる
- 法人や仕事について調べず、最初から否定的に振る舞う
公認会計士試験に合格する学力と、一緒に働きたいと思われる人柄は別のものである。
たとえ優秀でも、横柄な態度や相手を舐めてかかるような態度が見えれば、採用をためらわれる可能性は十分にある。
評価ポイント③受け答えから伝わる「優秀さ」
マナーと人柄に問題がなければ、その次に見られるのが優秀さである。
学歴も、能力を推測するための客観的な指標の一つにはなるだろう。ただし、当然ながら学歴だけで評価が決まるわけではない。
私がリクルーターとして参加する中で、特に重視されていると感じたのは、イベントや個別面談における受け答えと質問の内容だった。
例えば、リクルーターの説明に対して的確に反応できる人や、話の内容を踏まえて一段深い質問ができる人は印象に残りやすい。
そのような就活生に対しては、リクルーターも次のような期待を持つ。
「きちんと物事を考えられる人だな」
「実際の仕事でも、自発的に考えながら動いてくれそうだな」
「クライアントとのコミュニケーションも任せられそうだな」
一方で、ただ説明を聞いているだけでは、能力や関心がリクルーターに伝わりにくい。
優秀さは、難しい専門用語を使うことではなく、相手の話を理解したうえで自分なりに考え、言葉にできるかどうかに表れる。
「どんな社風ですか?」だけでは印象に残りにくい
監査法人のリクルートイベントでは、就活生から次のような質問をよく受ける。
- どのような社風ですか
- 繁忙期はどれくらい忙しいですか
- 服装はどの程度自由ですか
- 有給休暇は取れますか
- 研修制度は充実していますか
いずれも就職先を選ぶうえで大切な質問である。聞いてはいけないわけではない。
ただし、これらは多くの就活生がする質問でもある。質問しただけで、リクルーターに強い印象を残すことは難しい。
また、「社風」のような抽象的な質問には、回答する側も抽象的な言葉でしか答えられない。
「風通しがよいです」
「若手でも意見を言いやすいです」
「穏やかな人が多いです」
こうした回答を聞いても、法人間の違いは見えにくいだろう。
質問するときは、自分の関心や仮説を加えると、より具体的な情報を引き出しやすくなる。
評価されやすい質問の特徴
良い質問には、正解があるわけではない。
しかし、印象に残りやすい質問には共通点がある。
- 自分の関心領域が表れている
- 事前に法人や業界について調べている
- 相手の説明を踏まえている
- 自分なりの考えや仮説が含まれている
- 入社後の仕事を具体的に想像している
例えば、興味のある業界について、次のように質問できる。
「私は金融業界に関心があります。特に決済やFinTechの領域に興味があるのですが、御社では若手のうちからどのような案件に関われる可能性がありますか」
これなら、自分の関心と質問の意図が相手に伝わる。
配属について聞きたい場合も、単に「希望は通りますか」と聞くより、次のように具体化した方がよい。
「製造業の海外展開やIFRSに関心があります。そのような経験を積みたい場合、どの事業部やチームを志望するのがよいでしょうか。また、配属希望を伝える機会はありますか」
監査の将来について、自分なりの考えをぶつけてみる方法もある。
「AIによって、証憑突合などの定型的な監査業務は今後さらに自動化されると思っています。その場合、若手会計士にはどのような能力がより求められるようになるとお考えですか」
このような質問が飛んでくると、リクルーター側も「普段から自分で考えている人だな」と感じる。
もっとも、難しそうな質問を無理に用意する必要はない。インターネットで見つけた質問を暗記しても、追加で聞き返されたときに自分の考えがなければ、かえって不自然になる。
普段からニュースを読み、自分の関心領域にアンテナを立てておくことが大切である。
質問は「評価されるため」だけにするものではない
質問の目的は、リクルーターに優秀だと思わせることだけではない。
自分に合う法人やチームを見極めるためにも、具体的な質問が必要である。
例えば、忙しさについて知りたいなら、「忙しいですか」と聞くだけでは十分ではない。
- 繁忙期は何月頃か
- その時期の典型的な一日の流れ
- 複数案件を同時に担当するのか
- スタッフの残業時間はどの程度か
- 休暇を取りやすい時期はいつか
- チームによる違いはどの程度あるか
このように分解して聞けば、自分が実際に働く姿をイメージしやすくなる。
聞こえのよい回答を引き出すのではなく、自分の意思決定に必要な情報を集めるという意識を持ってほしい。
リクルーターは「どのチームに来てほしいか」という目線でも動く
ここからは少し踏み込んだ話をしたい。
リクルーターは、必ずしも法人全体や事業部全体の目線だけで動いているわけではない。
「この就活生には、ぜひ自分のチームに来てほしい」
そのような目線で就活生を見ていることもある。
監査法人の採用活動では、現場で働く職員がリクルーターを務める。自分の所属するチームで人手が必要だったり、将来有望な若手を迎えたいと考えていたりすれば、評価した就活生に、自分のチームへ来てほしいと感じることもある。
これは、就活生にとってチャンスでもある。
興味のある業界や案件が明確なら、その領域に詳しい職員と積極的に接点をつくった方がよい。
興味のあるチームの職員を紹介してもらう
例えば、金融業界に興味があるなら、金融事業部の説明を聞くだけで終わらせる必要はない。
銀行、保険、証券、アセットマネジメント、決済、FinTechなど、金融の中でも関心領域を具体化していく。
そのうえで、リクルーターに次のように相談してみよう。
「決済事業やFinTech企業の監査に興味があります。実際にそのような案件を担当している方のお話を伺うことはできますか」
関心と理由が明確であれば、該当するチームの職員を紹介してもらえる可能性がある。
最初は若手やシニアとの面談かもしれない。そこでさらに関心や適性を評価されれば、マネージャー、シニアマネージャー、場合によってはパートナーへとつながることもある。
役職者と会うこと自体が目的ではない。
実際にその領域で働いている人と話し、自分の興味や強みを伝え、チーム側にも「一緒に働きたい」と思ってもらうことに意味がある。
希望するチームがあるなら、意思を言葉にする
興味のあるチームのマネージャーやパートナーと面談し、「この人にはぜひ来てほしい」と思ってもらえたなら、希望が配属時に考慮される可能性もある。
その際、本当にそのチームへ入りたいのであれば、曖昧にせず意思を伝えてよい。
「今日お話を伺って、このチームで働きたいという気持ちが強くなりました。もし入社できた場合には、ぜひ配属を希望したいです」
この程度なら、決して失礼ではない。
もちろん、監査法人の採用や配属は組織全体の人員計画によって決まる。特定の職員と面談したからといって、内定や希望チームへの配属が保証されるわけではない。
公式な採用ルートを飛び越えて、個人的な約束を求めるべきでもない。
それでも、自分の関心を明確にし、希望するチームとの接点を増やしておくことには価値がある。
何も伝えなければ、採用側もその人がどこで働きたいのか分からない。希望があるなら、適切な形で言葉にした方がよい。
「法人選び」だけでなく「チーム選び」まで意識する
就活生は、「どの監査法人に入るか」に注目しがちである。
しかし、実際の働き方や経験できる業務は、配属される事業部やチームによって大きく変わる。
同じ法人の中でも、クライアントの業界、チームの人数、繁忙期、職場の雰囲気、若手への仕事の任せ方は異なる。
だからこそ、リクルート活動では法人のブランドだけを見るのではなく、次の点まで考えてほしい。
- 自分はどの業界に興味があるか
- どのようなクライアントを担当したいか
- どのような経験を積みたいか
- どのような人と働きたいか
- その希望に合う事業部やチームはあるか
関心領域がまだ決まっていなくても問題はない。
複数の職員から話を聞く中で、「この業界は面白そうだ」「この人たちと働きたい」と思える対象を探せばよい。
まとめ:評価される就活生は、自分で考えて動いている
監査法人のリクルートで評価されるために、特別な経歴や派手な自己PRが必須なわけではない。
まずは、最低限のマナーを守り、誠実に人と接すること。
そのうえで、相手の話を聞き、自分なりに考え、関心のあることを言葉にする。
そして、興味のある業界やチームが見つかったら、自分から人を紹介してもらい、接点を深めていく。
こうした動きができる就活生は、リクルーターの目にも魅力的に映る。
監査の現場でも、指示を待つだけではなく、状況を理解し、自分で考えて動く力が求められるからである。
正式な面接だけを「評価される場」と考えない方がよい。
論文式試験後の最初のイベントから、リクルート活動はすでに始まっている。その前提で準備し、自分自身も法人やチームを評価するつもりで、一つひとつの機会を活用してほしい。


