監査法人における「主査」とは?仕事内容と若手が目指すべき理由

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監査法人に入ると、次のような言葉を耳にすることがある。

「まずは主査を目指そう」
「主査を経験して、ようやく監査が分かる」
「主査はとにかく大変だ」

しかし、入社前の学生や入社して間もないスタッフにとって、「主査」が何をする人なのかは分かりにくい。

役職表を見ても、スタッフ、シニア、マネージャー、パートナーといった職階は載っているが、「主査」という職階は存在しないことが多いからだ。

では、主査とは何なのか。どのような仕事を担い、なぜ若手のうちに目指すべきなのか。

この記事では、監査法人における主査の役割と、主査になるために若手が意識すべきことを、私自身の経験も踏まえて解説する。

※「マネージャー、パートナーとは?」と疑問に思った方は、こちらの記事も参照してほしい。

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そもそも「主査」とは

主査とは、監査チームの実務を統括するリーダーである。「インチャージ」と呼ばれることも多い。

主査は正式な職階ではなく、個別の監査チームにおける役割を表す言葉だ。

一般的な監査チームには、監査業務全体に責任を負う業務執行社員として、1~3名程度のパートナーがいる。その下に主査が配置され、さらにその下でシニアスタッフやスタッフなどのチームメンバーが監査手続を担当する。

私の所属していた監査法人では、主査は常に2名置かれていた。

  • 主査1
  • 主査2
  • その他のチームメンバー

呼び方や体制はチームによって異なるが、一般的には主査1の方が上位に位置する。

主査を担当するのは、シニアマネージャーやマネージャー、シニアスタッフであることが多い。一方、小規模な監査案件や子会社監査では、経験を積んだスタッフが主査を任されることもある。

誰が主査になるかは、監査チームの規模や難易度、本人の経験、社内の人員状況などによって決まる。

主査の仕事内容

主査の仕事は、単に監査調書を作成することではない。

監査業務を一つのプロジェクトとして成立させ、期限までに完了させることが主査の役割である。

具体的には、次のような仕事を担う。

  • 監査チームの人員構成の検討
  • 監査契約締結の準備
  • クライアントとの監査報酬に関する調整
  • 監査計画の策定
  • チームメンバーへの業務の割り当て
  • 監査スケジュールと進捗の管理
  • メンバーが作成した監査調書の査閲
  • 重要な会計・監査論点の整理
  • パートナーや上位者との協議
  • クライアントからの相談や質問への対応
  • 監査結果の取りまとめ

メンバーが「自分に割り当てられた監査手続を終わらせること」に責任を持つのに対し、主査は「監査チーム全体として業務を完了させること」に責任を持つ。

ここが、主査と一般のチームメンバーとの大きな違いである。

主査1と主査2の違い

主査1と主査2の役割分担は、チームによって大きく異なる。

ただし、私が見てきたチームでは、主査2が実務の前面に立って動き、主査1がより俯瞰的な視点からチーム全体を統括するケースが多かった。

主査2は、メンバーへの指示、日々の進捗管理、クライアントとの資料授受など、現場に近い部分を中心に担当する。

一方の主査1は、監査計画や重要論点、チーム全体のリソース配分、パートナーへの報告など、監査の方向性を左右する判断に、より深く関与する。

もちろん、チームの規模が小さければ、主査1がこれらをすべて担うこともある。主査1と主査2の境界が明確ではなく、二人で柔軟に分担しているチームもある。

「主査」という名称が同じでも、担当する案件によって仕事の範囲や難易度は大きく変わる。

若手の最初の業務目標は「主査」がおすすめ

監査法人に入社した若手にとって、最初の分かりやすい目標は、公認会計士試験の修了考査に合格し、無事に公認会計士登録をすることだと思う。

法人や部門によって制度は異なるが、公認会計士登録がシニアスタッフへの昇格要件の一つになっていることも多い。資格登録は、監査法人で働くうえで非常に重要な節目である。

ただし、資格上の目標と業務上の目標は、分けて考えた方がよい。

いくら日々の仕事で高い評価を得ても、それだけで修了考査に合格できるわけではない。反対に、業務への向き合い方が十分でなくても、必要な実務経験を積み、修了考査に合格すれば、公認会計士として登録することはできる。

しかし、資格を取得しただけで、その後も順調に昇格できるとは限らない。

修了考査で求められる能力と、監査の現場で評価される能力は別物だからだ。

監査法人でその先を目指すなら、監査の全体像を理解し、チームを動かし、クライアントや上司と調整しながら業務を完了させる力が必要になる。

そこで、若手の最初の業務目標としておすすめしたいのが、「スタッフ3年目までに、小規模案件でもよいので主査を経験すること」である。

主査になると監査の見え方が変わる

チームメンバーとして働いている間は、どうしても自分に割り当てられた監査調書に意識が集中する。

前年の監査調書を確認し、クライアントに資料を依頼し、必要な検証を行い、結論を記載する。もちろん、これらは監査の基礎を身につけるために欠かせない仕事だ。

しかし、自分の担当範囲だけを見ていると、監査業務全体がどのようにつながっているのかは、なかなか理解できない。

主査になると、見える景色が変わる。

監査契約の締結準備を進め、必要なメンバーを集め、リスクを評価して監査計画を作り、チームに仕事を割り振る。進捗が遅れていれば原因を特定し、重要な論点が見つかれば上司やクライアントと協議する。

そして最終的には、パートナーによる監査意見の形成と監査報告書の発行まで、必要な実務を一つにつなげなければならない。

主査を経験して初めて、それまで個別に見えていた監査手続が、一つの監査業務としてつながる。

また、主査として必要になるのは、監査や会計の知識だけではない。

  • プロジェクトを計画どおりに進める力
  • メンバーの経験や能力に応じて仕事を割り振る力
  • 問題を早期に発見し、上司へ報告する力
  • クライアントと適切な関係を築く力
  • 意見の異なる関係者の間を調整する力

こうした能力は、監査法人の外でも広く役立つ。

主査は、単なる「監査の担当者」から「プロジェクトの責任者」へと視座を引き上げる経験なのである。

主査を任せてもらうために1年目から意識すること

主査は、年次が上がれば自動的に任せてもらえるものではない。

主査として案件を任せても問題ないと、パートナーやマネージャーから信頼される必要がある。そのための準備は、1年目から始まっている。

まず意識したいのは、目の前の作業だけを見ないことだ。

監査手続を指示されたら、次のような点を考える。

  • この手続は何を確かめるために行うのか
  • どの監査リスクに対応しているのか
  • 監査全体の中で、どのような位置づけにあるのか
  • この手続で例外が発見された場合、どこに影響するのか
  • 前後の監査調書とどのようにつながっているのか

前年の監査調書をそのまま踏襲するのではなく、監査基準や会計基準、法人内部のマニュアルまで確認する習慣をつけることも重要だ。

分からないことがあれば、抱え込まずに先輩へ聞く。ただし、単に「分かりません」と尋ねるのではなく、自分なりに調べ、考えたうえで質問する。その積み重ねによって、監査への理解度と周囲からの信頼が高まっていく。

さらに、クライアントとのコミュニケーション能力を磨くことも非常に重要だ。

資料依頼はメールで済ませるべきか、それとも電話や対面で説明すべきか。クライアントから相談を受けたとき、どこまでその場で回答し、どの段階で上司へ報告すべきか。相手との関係を損なわずに、監査人として伝えるべきことを伝えられるか。

主査になると、監査チームの窓口として、こうした判断を日常的に求められる。

私の上司は、主査になるための条件として、「監査チームの代表としてクライアントの前に出しても恥ずかしくないか」を挙げていた。

2年目になったら「主査をやりたい」と伝える

2年目に入り、監査業務に慣れてきたら、上司に「3年目には主査を経験したい」と伝えてみよう。

ただ待っているだけでは、希望どおりの機会が回ってくるとは限らない。パートナーやマネージャーも、本人が主査を希望していることを知らなければ、候補として検討できないからだ。

特に、所属するチームの監査対象が多数の子会社を持っている場合はチャンスがある。

親会社監査の主査をいきなり任せてもらうことは難しくても、比較的小規模な子会社の会社法監査や任意監査であれば、スタッフが主査を担当できる可能性がある。

一方で、所属チームに若手が担当できる小規模案件がないこともある。主査候補となるシニアスタッフが多く、スタッフまで機会が回ってこない場合もあるだろう。

その場合は、チームの外にも目を向けたい。

監査法人では、繁忙期などに別の監査チームへヘルプに行くことがある。そこで良い仕事をすれば、ヘルプ先のパートナーやマネージャーにも自分の働きを知ってもらえる。

一定の信頼を得たうえで、次のように相談してみる。

「主査を経験してみたいのですが、今のメインチームでは、なかなか機会がありません。何か挑戦できそうな案件はありませんか」

そのパートナーやマネージャーがちょうどよい規模の案件を持っていれば、主査候補として声をかけてもらえるかもしれない。

私自身、監査法人では、目の前の仕事で成果を出すだけでなく、自分が何を経験したいのかを周囲に伝えることが重要だと感じた。

良い仕事をして信頼を得る。そのうえで、自分から機会を探しに行く。

この両方があって初めて、若手のうちに主査を経験できる可能性が高まる。

主査を経験せずに監査法人を離れるのはもったいない

もちろん、すべての人が監査法人でマネージャーやパートナーを目指す必要はない。

監査法人に数年間勤めたあと、事業会社、コンサルティングファーム、FAS、金融機関などへ転職する人も多い。

それでも私は、可能であれば主査を一度経験してから監査法人を離れることをおすすめしたい。

主査を経験すれば、「監査手続を実施する」だけでなく、「監査業務を遂行する」とはどういうことなのかを理解できる。

さらに、プロジェクト管理、チーム運営、クライアントとのコミュニケーション、上席者への報告、問題発生時の対応など、監査以外の仕事にも応用できるスキルを一気に学べる。

担当する案件の規模は小さくてもよい。

自分が中心となって監査計画を立て、メンバーに仕事を割り振り、クライアントや上席者と調整し、最後まで監査を完了させた経験には大きな価値がある。

主査を経験し、無事に公認会計士資格も取得できたなら、その後の選択肢は広がる。

監査法人に残り、パートナーを目指すのもよい。主査経験を武器に、法人の外へ転職するのもよい。

どちらを選ぶにせよ、監査法人で得られるものを一段と深く持ち帰ることができるはずだ。

監査法人に入社したら、資格登録だけをゴールにしないでほしい。

若手のうちに、まずは一つの監査を自分の手で回してみる。

「主査を経験すること」は、監査人としての成長だけでなく、その後のキャリアを考えるうえでも、大きな節目になる。