監査法人に入った後、公認会計士はどのようなキャリアを歩むのか。
就職活動中の学生や、監査法人への転職を考えている人にとって、意外とイメージしにくい部分だと思う。
監査法人には、スタッフからパートナーまで続く、分かりやすい出世コースがある。
スタッフ→シニアスタッフ→マネージャー→シニアマネージャー→パートナー
法人や個人によって差はあるものの、各職階をおおむね4年前後経験しながら、次の職階を目指すのが一つの標準的なキャリアモデルである。
ただし、年次を重ねれば順番に上がれるわけではない。比較的順調に進みやすいのはシニアスタッフまでで、マネージャー以降は実績、人事評価、法人への貢献、予算やポストまで影響する。

スタッフ―まずは監査の「作業者」から始まる
スタッフは、監査チームにおける実務の担い手である。
主な仕事は、監査調書の作成だ。クライアントから受領した資料を確認し、監査手続を実施し、その内容と結論を調書として残していく。
そのほかにも、資料依頼リストの作成、往査の日程調整、会議の議事録作成、監査チーム内の情報整理など、基本的な業務から細かなロジ周りまで幅広く担当する。
入社直後は、上司から指示された手続を正確に終わらせることが第一の役割になる。
「なぜこの手続を行うのか」「この調書が監査全体のどこにつながるのか」まで理解できていないことも多い。それでも、さまざまな勘定科目や業務プロセスを経験するうちに、少しずつ監査の全体像が見えるようになってくる。
シニアスタッフ―作業者からチーム運営側へ
シニアスタッフになると、自分の担当業務を終わらせるだけでは足りなくなる。
スタッフへの業務指示やアドバイス、スタッフが作成した調書に対するレビューコメントを通じた指導など、チーム全体を意識した仕事が増えていく。
もちろん、シニアスタッフ自身も監査調書を作成する。ただし、担当するのは、会計上の見積りや複雑な取引、重要な会計論点など、スタッフ時代より難易度の高い領域になることが多い。
さらに、主査として監査チームを運営する機会も増えてくる。
監査計画を策定し、各メンバーに業務を割り振り、進捗を管理する。クライアントから相談を受けた場合には、論点を整理したうえでマネージャーやパートナーと協議し、監査チームとしての回答をまとめる。
スタッフが「自分の仕事を完遂する職階」だとすれば、シニアスタッフは「チームとして仕事を完遂させる職階」への移行期間といえる。
なお、「主査とは具体的に何をする人なのか」と疑問に思った方は、こちらの記事も参照してほしい。

マネージャー―監査チームの「顔」になる
マネージャーは、主査を務め、あるいはシニアスタッフの主査を監督しながら、監査チーム全体を管理する立場である。
人員配置、進捗管理、調書レビュー、クライアント対応を通じて、監査業務全体の品質を管理する。自ら大量の調書を作るよりも、スタッフやシニアスタッフを動かし、問題が起きれば前面に立って解決する側へ回る。
また、クライアントとのやり取りも格段に増える。
経理担当者だけでなく、経理部長やCFO、ときには役員クラスと重要な会計論点や監査上の課題について協議する。問題が起きたときに前面に立ち、クライアントと監査チームの間を調整するのもマネージャーの仕事だ。
その意味で、マネージャーは監査チームの「顔」といえる。
シニアマネージャー―監査案件から法人経営へ
シニアマネージャーの役割は、一言でいえば「マネージャーの強化版」である。
大規模・複雑な監査案件を担当し、マネージャーと同様にチームのリソース管理や品質管理、クライアント対応を行う。
一方で、個別の監査案件だけでなく、事業部やセクター全体を意識した業務も増えていく。
複数チームの人員配置、新規案件の営業や獲得、法人内部のプロジェクト運営、若手職員の育成など、より法人目線での役割を求められるようになる。
パートナー候補として評価されるためには、担当案件を問題なく終わらせるだけでは不十分だ。
「この人をパートナーにした場合、法人にどのような利益をもたらすのか」という視点で見られるようになる。
パートナー―監査法人の経営者であり、最終責任者
パートナーは、株式会社でいえば役員に近い存在である。
監査法人を運営する立場として、事業部の予算管理や人員管理、営業、新規案件の獲得などを担う。
その中でも特に重要なのが、業務執行社員として監査報告書にサインする役割だ。
監査報告書に名前を載せる以上、監査業務に対する最終的な責任も負う。
監査に関する不祥事が発生した場合、最終的に責任を問われるのは業務執行社員であるパートナーだ。規制当局による外部検査や、法人内部の品質管理検査で重大な指摘を受ければ、パートナー本人の人事評価や報酬にも直接影響する。
若手の頃は、パートナーがレビューで細かい指摘をするのを見て、「そこまで気にしなくてもいいのでは」と感じることがある。
しかし、最後に自分の名前で監査報告書へサインする立場だと考えれば、慎重になるのも当然である。
シニアスタッフから先は、意外と簡単に昇格できない
監査法人の昇格事情は、外から見るよりもシビアだ。
スタッフからシニアスタッフまでは比較的順調に進めても、その先で昇格が止まる人は決して珍しくない。
シニアスタッフからマネージャー
マネージャーに昇格するためには、原則として主査経験が欠かせない。
自分の担当調書を正確に作成できるだけでは、マネージャーとしてチームを任せられるとは評価されない。監査計画を立て、スタッフを動かし、クライアントと調整しながら、期限内に監査を完了させた実績が必要になる。
昇格候補者にはパートナーとの面談機会が設けられるが、人事評価によっては、その面談候補にすら選ばれないこともある。
そして一度昇格できなかったからといって、翌年に自動的に上がれるわけでもない。
同じ職階に滞留する期間が長くなるほど、「なぜこれまで昇格できなかったのか」という見方もされやすくなり、徐々に昇格のハードルが上がっていく。その結果、マネージャーに上がれないまま転職する人もいる。
マネージャーからシニアマネージャー
マネージャーからシニアマネージャーへの昇格でも、候補者は普通に落ちる。
本人の実績や評価だけでなく、法人の予算状況にも左右されるからだ。
監査法人のコストの大部分は人件費である。昇格させれば、その分だけ給与や賞与などの負担も増える。そのため、法人や事業部の利益状況が厳しければ、昇格人数が絞られることもある。
どれだけ本人が頑張っても、自分ではコントロールできない事情で昇格枠が減る可能性があるのだ。
シニアマネージャーからパートナー
最も狭き門となるのが、シニアマネージャーからパートナーへの昇格である。
パートナーとして迎えられる人数には限りがあり、候補者全員を昇格させることはできない。求められる実績や法人への貢献度も、マネージャーまでとは比べものにならない。
何年か連続して昇格を逃すと、将来のパートナー候補として扱われなくなる可能性もある。
シニアマネージャーまで上がると、年収も職位も高くなり、転職先にはそれに見合ったポストが必要になる。若手のように「とりあえず事業会社へ」という動き方はしにくい。パートナーへの道が細くなってから外に出ようとしても、希望条件に合う転職先が見つからず、監査法人に残らざるを得ないケースもある。
パートナーになりたいなら、若手の頃から逆算する必要がある
監査法人に長く勤めていれば、なあなあでパートナーになれる。
そのような甘い世界ではない。
本気でパートナーを目指すのであれば、必要な経験を若手の頃から逆算して積み上げる必要がある。
たとえば、特定の業界や会計領域における専門性を身につける。グローバル案件や海外出向に積極的に手を挙げる。早い段階から主査を経験し、難しい監査チームを完遂させる。外部検査や法人内部の品質管理検査の対象となる重要案件を経験し、品質面でも信頼を積み上げる。
そして何より重要なのが、多くのパートナーやシニアマネージャー、マネージャーから評価されることである。
監査法人の昇格は、試験の点数だけで決まるものではない。日々の仕事ぶりを見ている上位職階から、「この人に大きな案件を任せられる」「将来、法人を背負う人材になれる」と思ってもらわなければならない。
普段の監査でも、パートナーへのプレゼン機会があれば積極的に手を挙げる。パートナーとの議論が必要になるような難しい会計論点に取り組む。打ち上げや飲み会にも顔を出し、担当チーム以外の上位職階とも関係をつくる。
これは、単に偉い人へ媚びるという話ではない。監査法人の人事評価では、自分の仕事を知っている人が少なければ、それだけ評価材料も限られる。担当チーム外でも仕事ぶりを知ってもらい、複数の上位職階から信頼を得ることには、実務上の意味がある。
また、パートナーが監査法人の経営者である以上、専門知識や監査能力だけでなく、周囲を巻き込み、信頼関係を築く力も評価される。実務能力が高ければ、それだけで自動的にパートナーになれるわけではない。
なお、法人が就活生向けに実施するリクルート活動は、チーム外に名前を売る絶好の機会になる。特に、採用活動には事業部内で人事権を持つパートナーが関与していることも多い。精力的に動き、顔と名前を覚えてもらうだけでも、チーム外での認知度は大きく変わる。リクルート活動の詳細については、以下の記事を参照されたい。
監査法人に残るなら、「どこまで上がりたいか」を考えておく
監査法人のキャリアは、一本道に見えて、実際にはそうではない。上に行くほど昇格の難易度が高くなるだけでなく、仕事そのものが監査実務からマネジメント、営業、法人経営へと変わっていく。
大切なのは、次の職階へ上がれるかだけではない。その先で、自分が本当にその仕事をしたいかである。
パートナーを目指すなら、若手のうちから必要な経験と人間関係を積み上げる。監査実務を離れたいなら、転職の選択肢が広いうちに外へ出る。
監査法人に残るにしても、辞めるにしても、判断を先送りすること自体が一つのキャリア選択になる。だからこそ、まだ選択肢の多い若手のうちに、自分がどこまで上がりたいのかを考えておいた方がいい。

