公認会計士試験に合格した後、最初に悩むのが監査法人選びだ。
私は就職活動をしていた当時、Big4監査法人と中小監査法人のどちらに入るべきか迷っていた。最終的にはBig4に入所し、約3年半にわたって監査業務に従事した。
実際に働いてみると、Big4には大手ならではのメリットが数多くあると感じた。
この記事では、Big4監査法人で働いた経験をもとに、その魅力を4つに絞って紹介する。
これから監査法人への就職を控えている人や、Big4と中小監査法人のどちらを選ぶべきか迷っている人の参考になれば幸いだ。
そもそもBig4・中小監査法人とは
監査法人への就職活動では、「Big4」「準大手」「中小」といった言葉がよく使われる。
ただ、初めて就職活動をする人にとっては、具体的にどの監査法人を指しているのか分かりにくいかもしれない。
Big4監査法人
Big4とは、世界的に展開する4大会計事務所のグローバルネットワーク、またはそれぞれに加盟する日本の大手監査法人を指す呼び方だ。
日本におけるBig4監査法人は、次の4法人である。
- 有限責任あずさ監査法人(KPMG)
- 有限責任監査法人トーマツ(Deloitte)
- EY新日本有限責任監査法人(EY)
- PwC Japan有限責任監査法人(PwC)
いずれも数千人規模の人員を抱え、日本を代表する大企業や金融機関、グローバル企業などの監査を数多く担当している。
金融庁の公認会計士・監査審査会では、大手監査法人を「上場国内会社を概ね100社以上被監査会社として有し、かつ常勤の監査実施者が1,000名以上いる監査法人」と整理している。現在、この区分に該当するのが上記の4法人だ。
なお、PwC Japan有限責任監査法人は、2023年12月にPwCあらた有限責任監査法人とPwC京都監査法人が合併して発足している。そのため、以前の記事や就職情報では、旧法人名が使われている場合もある。
準大手監査法人
Big4に次ぐ規模の監査法人は、一般に「準大手監査法人」と呼ばれる。
公認会計士・監査審査会が準大手監査法人として扱っているのは、次の4法人である。
- 仰星監査法人
- 三優監査法人
- 太陽有限責任監査法人
- 東陽監査法人
三優監査法人はBDO、太陽有限責任監査法人はGrant Thornton、東陽監査法人はCroweという国際的な会計事務所ネットワークに加盟している。
準大手監査法人も多くの上場会社を監査しており、海外の会計事務所ネットワークを通じてグローバル企業の監査に対応している法人もある。
Big4より組織規模は小さいものの、中小監査法人と比べれば人員やクライアント数が多く、Big4と中小の中間に位置する存在と考えると分かりやすい。
中小監査法人
中小監査法人とは、基本的にはBig4と準大手監査法人以外の監査法人を指す。
例えば、次のような監査法人がある。
- Forvis Mazars Japan有限責任監査法人
- RSM清和監査法人
- Mooreみらい監査法人
- UHY東京監査法人
- HLB Meisei有限責任監査法人
- 監査法人A&Aパートナーズ
- 監査法人アヴァンティア
- 監査法人アーク
ここに挙げた法人以外にも、日本には数多くの中小監査法人が存在する。また、「中小」という言葉でまとめられているものの、法人ごとの規模にはかなり幅がある。
数百人規模の職員を抱え、上場会社を数多く監査する法人もあれば、数人から数十人程度で特定の地域や業種に特化している法人もある。海外ネットワークに加盟し、国際的な監査業務を手掛けている中小監査法人も存在する。
そのため、「中小監査法人は小規模な会社しか監査しない」「海外案件がない」と一括りにすることはできない。
なお、上場会社を監査するためには、日本公認会計士協会の「上場会社等監査人名簿」への登録が必要となる。中小監査法人の中にも、上場会社やIPO準備会社の監査を積極的に行っている法人は多い。
監査業務の基本的な枠組みは、どの監査法人でも変わらない
Big4のメリットを紹介する前に、まず押さえておきたい前提がある。
それは、監査業務そのものの基本的な性質は、どの監査法人に入っても大きく変わらないということだ。
監査計画を立て、リスクを識別し、内部統制を理解・評価したうえで、実証手続を実施する。監査証拠を入手して調書を作成し、最終的に監査意見を形成する。
もちろん、法人ごとに監査ツールや細かな方法論は異なる。また、担当企業の規模や業種、チーム編成、若手に任される業務の範囲にも違いがある。それでも、監査を実務として学ぶという点では、中小監査法人でも十分な経験を積むことができる。
Big4と中小監査法人の違いが表れやすいのは、監査業務そのものよりも、それを支える組織の規模や環境、キャリアの選択肢である。
その前提を踏まえたうえで、私が感じたBig4のメリットを紹介していく。
Big4のいいところ4選
①監査品質を支える体制が充実している
Big4の大きな強みの一つが、監査品質を支えるための人的・資金的リソースの豊富さだ。
大規模な監査法人には、会計・監査上の難しい論点を専門的に検討する部署や、監査品質を管理する部門が設けられている。現場だけでは判断が難しい論点が生じた場合にも、法人内の専門家へ相談できる体制が整っている。
業種ごとのナレッジも蓄積されている。
例えば、金融、製造、小売、IT、不動産といった産業ごとに専門チームや豊富な監査事例が存在する。過去の事例や法人内の知見を参照しながら、監査手続を検討できることは大きなメリットだ。
また、Big4は大規模なクライアントを多数抱える以上、監査上の問題が法人全体の信用に与える影響も大きい。そのため、重要な会計・監査上の判断について、現場だけで完結させず、専門部署への相談や重層的なレビューを求める仕組みが整えられている。
もちろん、Big4だから個々の監査業務が必ず高品質になるわけではない。現場の繁忙度やチームの状況によって、実務上の運用には差もある。
それでも、監査品質を組織的に支える仕組みの厚さは、Big4ならではの魅力だと感じた。
②AIやデジタルツールを活用した最先端の監査に関われる
AIやデジタルツールへの投資余力が大きいことも、Big4のメリットである。
近年、監査業務ではデータ分析やAIの活用が急速に進んでいる。
例えば、リース会計基準の改正によって、企業がリースに該当する契約を網羅的に把握する重要性が高まっている。
しかし、大企業が保有する膨大な契約書を人間が一件ずつ読み、リースに該当する可能性のある契約を探すには、多くの時間と労力がかかる。
そこで、契約書をAIに読み込ませ、リースの判定に必要な情報を抽出するツールの開発・活用が進められている。
このほかにも、次のような領域でデジタルツールの活用が進んでいる。
- 財務数値や取引傾向を分析し、不正リスクの兆候を検知する
- 仕訳データを分析し、異常な取引を抽出する
- 取締役会議事録などを要約し、監査上重要な情報を特定する
- 大量の証憑や契約書から必要な情報を抽出する
こうしたツールは、開発したからといって、すぐに大きな成果が出るとは限らない。
現場への導入、監査基準への適合、情報セキュリティー、出力結果の信頼性など、乗り越えるべき課題も多い。短期的には、従来の方法で監査した方が早い場面さえある。
それでも、将来的な監査の高度化・効率化を見据え、大規模な投資を長期間続けられることがBig4の強さだ。
現場の監査人として最新のツールを使うだけでなく、監査経験を生かしてツールの企画や開発、導入に携わる道もある。
従来型の監査だけにとどまらず、テクノロジーを活用した監査に関心がある人にとって、Big4は魅力的な環境だろう。
③ネームバリューがあり、転職でも評価されやすい
監査法人の外へ出る可能性を考えるなら、Big4のネームバリューは無視できない。
「Big4監査法人出身」という経歴は、転職市場でも一定の評価を受けやすい。
もちろん、Big4に在籍していたというだけで転職が成功するわけではない。実際にどのようなクライアントを担当し、どのような役割を果たしたのかは当然問われる。
それでも、採用する企業の立場からすると、Big4出身者には次のような経験が期待される。
- 大手企業に対する監査経験
- 一定水準の会計・監査知識
- 組織的な品質管理の下で働いた経験
- 厳しい期限に対応するプロジェクト管理能力
- クライアントや上司との調整能力
実際の能力以上に肩書きだけが評価されていると感じる場面もあるが、転職活動において、その看板が入口として機能することは確かだ。
事業会社の経理・財務、FAS、コンサルティングファーム、金融機関などへ転職する場合にも、Big4での経験は説明しやすい。
私自身の転職活動でも、Big4で大手企業の監査や主査を経験したことは、面接で繰り返し確認された。Big4出身という肩書きだけで評価されたわけではないが、少なくとも「どのような経験をしてきたのか」を聞いてもらう入口にはなったと感じている。
また、将来的に中小監査法人へ転職する場合にも、Big4で蓄積した大手企業監査の経験やナレッジが評価される可能性がある。
監査法人でキャリアを終えると決めていないのであれば、最初のキャリアとしてBig4を選ぶメリットは大きいと私は思う。
④研修や出向制度など、キャリアの選択肢が豊富にある
Big4では、研修制度や出向制度も充実している。
まず、法人内には会計・監査に関する膨大な研修コンテンツが用意されている。
会計基準や監査基準に関する研修だけでなく、特定の産業に関する勉強会、データ分析、IT、英語、マネジメントなど、幅広い分野を学ぶことができる。
グローバルネットワークに所属する海外ファームが作成した教材や、海外の知見を取り入れた研修に触れられることもある。
また、出向先の幅広さもBig4の魅力だ。
法人や個人の状況によって異なるが、例えば次のような出向先が考えられる。
- 大手クライアント
- 金融庁などの規制当局
- 官公庁や関連団体
- 海外のグローバルファーム
通常の監査業務を続けているだけでは得られない経験を積み、その後のキャリアにつなげることができる。
希望すれば必ず出向できるわけではないが、そもそも選択肢が豊富に用意されている点は、大規模な組織ならではのメリットだろう。
まとめ:迷っているなら、まずはBig4を検討してほしい
Big4監査法人の主なメリットは、次の4つだ。
- 監査品質を支える体制が充実している
- AIやデジタルツールを活用した最先端の監査に関われる
- ネームバリューがあり、転職でも評価されやすい
- 研修や出向制度など、キャリアの選択肢が豊富にある
私自身、就職活動では中小監査法人と迷ったが、Big4を選んだことに後悔はない。
携われる仕事の規模、蓄積されたナレッジ、成長機会、そして退職後も生きるネームバリュー。どれを取っても、Big4で働いたからこそ得られたものは大きかった。
若手のうちから裁量を持ちたい人や、特定のクライアントと長く付き合いたい人には、中小監査法人の方が合う可能性もある。
一方で、就職時点では将来のキャリアを決め切れておらず、まずは幅広い選択肢を残しておきたいのであれば、Big4は非常に有力な就職先だと思う。


