転職意思は上司にいつ伝える?監査法人から転職する際の注意点

転職

監査法人からの転職を考え始めたとき、多くの人が悩むのが「いつ上司に伝えるべきか」という問題である。

特に、お世話になった先輩や上司がいる場合、転職活動を始める段階で相談しておきたいと思う人もいるだろう。

「黙って転職活動を進めるのは不義理ではないか」

「早めに伝えた方が、チームも人員調整をしやすいのではないか」

監査法人では、同じチームで長時間働くことも多い。繁忙期を一緒に乗り越え、信頼関係を築いてきた仲間に対して、早めに事情を話したくなる気持ちは痛いほど分かる。

それでも私は、転職活動の初期段階で上司や同僚に相談することはおすすめしない。

本稿では、監査法人から転職する際、いつ上司に意思を伝えるべきなのかを解説する。

結論:転職先と条件が固まるまでは伝えない

結論からいえば、転職意思を上司に伝えるのは、志望先から内定を獲得し、転職する意思が固まった後にするべきである。

単に内定の連絡を受けただけではなく、年収や仕事内容、入社予定日などの条件を確認し、その会社へ転職すると決めてから伝えるのが望ましい。

決して、次のような段階で安易に相談してはならない。

・転職サイトやエージェントから情報収集している段階
・応募する会社を検討している段階
・書類選考や面接が進んでいる段階
・内定は出ているものの、転職するか迷っている段階

もちろん、上司との関係性や法人内での立場によって、最適なタイミングは異なる。

しかし、一度伝えた転職意思を、完全になかったことにはできない。内定前に伝えることには、大きく3つのリスクがある。

理由①:転職できなかった場合、法人に残りづらくなる

転職意思を伝えることは、法人から見れば「今後も長く働くとは限らない」という意思表示でもある。

転職を考えること自体は、決して悪いことではない。しかし、人事評価やアサインを決める立場からすれば、今後も法人に残り、長期的に貢献してくれる人材を優先したいと考えるのは自然である。

本人の転職意思がいくら固くても、必ず希望する会社から内定を獲得できるとは限らない。

書類選考で落ちることもあれば、面接を通過できないこともある。内定を獲得できても、提示された年収や仕事内容が希望に合わず、転職を見送る可能性もあるだろう。

そのとき、すでに転職意思を上司や人事へ伝えていたらどうなるだろうか。

本人としては心機一転、監査法人でもう一度頑張ろうと思っていても、周囲からは「いずれ辞めるかもしれない人」として認識されている可能性がある。

実際に評価を下げられるとは限らないが、少なくともプラスに働く情報ではない。自ら不利になり得る情報を、転職先が決まる前に開示する必要はないのである。

理由②:法人内で噂が広がる可能性がある

監査法人は、意外と狭い世界である。

同期や先輩へ「実は転職しようか迷っている」と相談しただけでも、その話が別の同期や上司へ伝わる可能性がある。

もちろん、相談相手に悪意があるとは限らない。

相談を受けた人があなたを心配して、別の上司へ意見を求めることもある。飲み会で何気なく話題に出してしまうこともあるだろう。

そうしているうちに、本人が知らないところで「あの人は転職活動をしているらしい」という噂が広がっていく。

直属の上司に噂が届いた場合、仮に人事評価には影響しなくても、その後のアサインに影響する可能性がある。

例えば、次のような機会が回って来なくなるかもしれない。

・新しい監査領域を任される機会
・主査や現場責任者を経験する機会
・難易度の高い論点に関与する機会
・クライアントとの重要な折衝を任される機会
・長期的な育成を前提としたプロジェクト

上司からすれば、近いうちに退職する可能性がある部下よりも、来期以降もチームに残る部下へ成長機会を与えたいと考えるだろう。

転職を迷っている段階で相談しただけなのに、重要な仕事から外されてしまう。その結果、転職を見送っても法人内で成長しづらくなる――という展開は避けたいところである。

理由③:猛烈な引き止めを受ける可能性がある

内定を獲得する前に転職意思を伝えると、上司に「まだ考え直す余地がある」と受け取られる可能性がある。

この方向へ話が進むと、転職活動がかなり面倒になる。

直属の上司だけでなく、チームのパートナーや事業部の責任者、人事担当者など、さまざまな人との面談を設定されるかもしれない。

場合によっては、飲みに連れて行かれたり、今後のキャリアについて繰り返し話し合うことになったりする。

もちろん、引き止めてくれること自体はありがたい。これまでの働き方を評価され、必要な人材だと思ってもらえている証拠でもある。

一方で、転職活動を進める本人にとっては、時間的にも精神的にも大きな負担となる。

「次の昇格まで残った方がいい」

「もう少し主査を経験してからでも遅くない」

「希望するチームへ異動できるように調整する」

「今辞めるのはもったいない」

こうした言葉を何度もかけられるうちに、「監査法人に残るのもありかもしれない」と気持ちが揺らぐ人もいるだろう。

それが冷静に検討した末の結論なら問題ない。しかし、周囲への申し訳なさや一時的な感情だけで転職を取りやめれば、しばらくして同じ不満を抱える可能性がある。

転職意思を揺らがせたくないのであれば、転職先と条件を固め、転職する覚悟を決めてから報告するべきである。

お世話になった上司へ直前に伝えるのは不義理ではないか

信頼している上司ほど、早い段階で相談したくなるものだ。

しかし、転職活動は自分のキャリアを左右する重要な意思決定である。情報収集や面接を水面下で進めることは、決して上司を裏切る行為ではない。

転職するかどうか決まっていない段階で報告しても、上司は具体的な準備を始められない。かえって、余計な心配や調整を増やしてしまうこともある。

大切なのは、早く伝えることよりも、転職が決まった後に誠実な対応をすることである。

例えば、次のような対応を丁寧に行いたい。

・まず直属の上司へ、自分の口から伝える
・退職理由や転職意思を率直かつ簡潔に説明する
・就業規則に従って必要な期間を確保する
・後任者への引き継ぎを丁寧に行う
・繁忙期や監査スケジュールへの影響を可能な範囲で抑える

退職報告の早さだけでなく、その後の振る舞いも含めて誠意は伝わる。

監査法人に残る道も考えている場合はどうするか

一方で、「転職するか、法人に残るか、本気で迷っている」という人もいるだろう。

その場合は、退職する可能性を伝えたうえで、自分の希望について上司と相談する方法もある。

例えば、監査法人で働き続けること自体に不満はないものの、次のような希望が通らず、転職を考えているケースである。

・担当する業界やクライアントを変えたい
・別の事業部やサービスラインへ異動したい
・海外出向に挑戦したい
・IPO支援やアドバイザリー業務を経験したい
・働き方や業務量を見直したい

法人側が「退職されるくらいなら、希望を受け入れた方がよい」と判断すれば、異動やアサイン変更などの要望が通る可能性がある。

ただし、この方法には相応のリスクもある。

転職意思を伝えた以上、要望が通らなかったときに法人へ残れば、周囲からは「一度辞めようとした人」と見られる可能性がある。また、希望が通るという保証もない。

この方法を使うのであれば、要望が受け入れられなかった場合には実際に退職する覚悟を持っておくべきである。

上司へ報告する前に確認しておきたいこと

内定を獲得したら、すぐに上司へ報告するのではなく、少なくとも次の事項を確認しておきたい。

・年収や役職などの労働条件
・配属先や具体的な仕事内容
・入社予定日
・オファーの回答期限
・現在の法人の就業規則
・退職希望日と有給休暇の残日数
・担当チームの監査スケジュール

特に、口頭で内定を伝えられただけの段階では、報告を急がない方がよい。労働条件通知書やオファーレターなどで条件を確認し、本当にその会社へ転職するのかを決めてから動こう。

また、監査法人では担当業務の繁忙期や監査報告書の提出時期によって、退職時期の調整を求められることがある。

転職先の入社日と現職の退職日が無理なくつながるよう、事前にスケジュールを整理しておくことが重要である。

まとめ:転職先が決まるまでは、周囲への相談や報告を我慢しよう

監査法人からの転職を考え始めても、転職先と条件が固まるまでは、上司や同僚へ安易に伝えない方がよい。

早い段階で転職意思を明かすと、次のようなリスクがある。

・転職できなかった場合、法人内に残りづらくなる
・法人内で噂が広がり、アサインや成長機会に影響する
・多くの関係者から引き止めを受け、転職活動の負担が増える

お世話になった上司へ黙って転職活動を進めることに、後ろめたさを感じる人もいるだろう。

しかし、転職は自分の人生を左右する意思決定である。転職先と条件が固まるまでは、自分を守ることを優先してよい。

その代わり、退職意思を伝えた後は、引き継ぎやスケジュール調整へ誠実に向き合おう。

早く相談することだけが、誠意ではないのである。